たにがわ2のブログ

みうゼノプラスから移行しました

カセットテープ2022 第2回 録音(ダビング)の楽しみ

 カセットテープの楽しみの一つに、録音があります。MDも録音ではありましたが、MP3プレーヤーぐらいからはエンコード*1とデータ転送になり、ついぞストリーミング時代には概念的にも存在しなくなりました。端的にいえば手間が解消された、便利になったということなのですが、一方で趣味性がなくなってしまいました。

 手間暇かけるのが趣味ということであれば、カセットテープの録音は趣味性が高いといえます。音質の良しあしが腕(+知識)と機材に大きく左右されるのが面白いところですね。機材といってもお金をたくさん用意して、良い機材を堪能するだけではありません。格安のノーマルテープの性能を最大限に引き出すとか、いろいろやれるんですよね。アナログ機器はちょっとしたことでかなり音が変わるので、楽しめます。

カセットテープの音質

 カセットテープの音質というと、温かみのある音(≒かまぼこ音質、高音が伸びない)といわれることが多いように思います。ソニー製の最新ラジカセ「CFD-S401」の仕様でいえば周波数範囲 TYPE I(ノーマル)カセット80Hz −10,000Hz(JEITA)となっていますので、間違っていない。昨今のカセットテープブームをうけたソニーの特集ページも以下のような感じです。

ーカセットテープ自体もオシャレなものを選んだりして、ですね。ちなみに、音を聴いてみた感じはどうでした?


ミキ:あ、懐かしかったです!


カナコ:うん、懐かしい


ミキ:高音質の音楽を、ヘッドホンでいっぱい聴いてた時期もあったんですけど。何か最近はそういうモードじゃなくなってきてて、レコードで聴いたり、部屋で何かリラックスしながら聴くっていうのが好きなんですよ。それで久しぶりにカセットを再生したら……何かちょっとこう、モワッとした音でしたよね(笑)

www.sony.jp

そう、モワっとした音ですね。それがいいんだ、雑貨感覚の手軽さ、おしゃれさが現在のカセットテープブームの中心なんだろうと思います。それは否定しない、しかし私はカセットテープの過去の栄光を追体験したいのですよね。全盛期のカセットテープはもっといい音がしたはずです。めざせ20KHz再生*2! せっかくですからマニュアルでいろんな調整ができるカセットデッキで録音を楽しみましょう。

カセットデッキでできる録音の楽しみ1 録音スタート位置を自分で決められる

 これはラジカセでもできる楽しみポイント。カセットテープに録音するとき、何秒目から録音しますか? カセットテープはリーダーテープという、茶色ではない部分が最初にあってそこには録音ができません。鉛筆などでリーダー部分を送ってからカセットをセットするようにと、例えば東芝ハイレゾ対応ラジカセTY-AK2取扱説明書にも記載されています。

 あらかじめまいておかなくても大体5秒もすればそこは通り過ぎるのですが、わたしは20秒は送ることにしています。なぜか? テープの端は伸びたり、ハブのテープ止めの癖がついていたり、走行が安定しなかったりと音が悪くなる要素が多いからです。市販の(録音済)ミュージックカセットはそこまで無音部がないのですが、1曲目の冒頭はは音がこもったり、ドロップしてしまいやすいですね。欲を言うと1分ぐらい送って録音したいところですが、それはそれで早送りが面倒ですから、お気に入りの曲は2曲目以降に入れるのがいいかもしれませんね。

カセットデッキでできる録音の楽しみ2 録音レベルの調整ができる

 これはカセットテープに限らずデジタル時代でも実は変わらないことで、YouTube Liveで配信してる人の方がむしろ気にしていることですよね。音割れを防ぎつつ、なるべく大きな音を入力する。テープの場合、ヒスノイズとよばれる「サー」といったような雑音が結構な音量で入りますから、小さい音でもそれに負けない程度は音量を稼がないといけません。レベルメーターとにらめっこして、曲の、アルバムの中で一番大きく針が触れるところが収まるように録音レベルを調整します。音が歪まないギリギリを目指す*3チキンレース的な楽しみ?がありますね。

カセットデッキでできる録音の楽しみ3 テープ種別が選べる

テープいろいろ

 ハイポジテープのことです。あるいはメタルテープのことです。あるいはフェリクロムテープのことです。ノーマルテープより値段が高いこれらのテープはなにかといえば、音声会話記録用途のノーマルテープと違って、音楽専用に特性を改善してあるのですね。しかし、機器側も対応が必要。思えば実家にかつてあったカセットテープデッキ(Technics RS-M13)は手動のテープセレクタがありました。ラジカセでもバブル時代のラジカセはメタルテープに録音できたものもあったようですね。

 そして何でもかんでもハイポジがノーマルよりいいかというとそうではなくて、楽曲に対して良し悪しがあるというのも最近知りました。熱烈なハイポジ信者だったのでショックです。そしてこういった悩みはMD以降になって消滅します。デジタル時代は何に記録しても音質はいっしょ。
www.sony.jpっていうと、これは黒歴史ですかね? 商売は大変だ。

カセットデッキでできる録音の楽しみ4 バイアス&EQ&録音感度調整とノイズリダクション(長文)

つまみがたくさん

 これは最近知ったのですが、高級なカセットデッキにはいろいろな調整つまみがついているんですね。カセットテープは前の項でのべたノーマル/ハイポジ/メタルの違いだけではなく、ノーマルの中でも音声会話用や音楽用など様々な銘柄のものがあります(した)。結果として録音すると音質がけっこう違います。それが味というのはまぁその通りなのですが、デッキ側で特性を補ってやることでより良い音で録音しましょうという機能になります。録音EQ付きの機種を使うと、f特をかなりフラットにすることができます。これはTechnics RS-M13にはなかったので知らなかったわけですが。

 そしてテープといえばノイズリダクション。日本オーディオ協会に興味深い文献がありますのでリンクしておきます。ノイズリダクションといえば有名なのはドルビーBです。もう最近はドルビーというと多チャンネル音声の再生規格(ドルビーアトモスとか)というイメージですが、民生規格の原点はこれだと思います。で、何のためにあるかというと、テープならではの「ヒスノイズ」の低減が目的です。

 安めのプレイヤーでカセットテープを再生すると「サー」音が思ったより大きくて、大げさに言うと大雨の中音楽をきいてるような感じになります。あれがヒスノイズです。ポップスやロックであれば曲が始まれば気にならないですが、クラシックのピアニッシモなんかはもろに気になるところですね。そのため、市販のミュージックカセットはほとんどドルビーマークがついていて、再生時にドルビーNRをオンにしてあげればこのノイズを低減できるようになっています。

 ドルビーBの仕組みは大まかにいうと録音の際に高音域を持ち上げておいて、再生するときに「サー」というノイズごと高音域の音量を下げることで相殺するというものです(エンファシス方式)。しかしむやみやたらに高音域の音量を上げてしまうと、レベルオーバーになってしまいますので、「ある一定の音量以上」のものはそのまま素通しにします。この基準があっていることが何より重要です。

 しかし市販のカセットテープは特性がバラバラなので「ある一定の基準」がずれてしまって大変なことになりがちなのですよね。つまり録音時に「大きな音量」として素通しにした高音域を再生時に「小さな音量」と感知して音量を下げてしまって、結果として強烈に音がこもるといった事態になりがちなのです。わたしもかつてマジでドルビー使えねぇって思ってました。

 なぜそうなってしまうかというと録音時に-2dBで音を録音したのに、再生時には-4dBで再生されてしまうというようなことが起きているからです。これはテープの感度が銘柄ごとに違うからです。デッキは基準テープに合わせて設計されているので、調整機能がない限り「それは仕様です」ということになってしまいます。しかし基準テープってメーカーはもちろん、年代によっても違うんですよね。そういった差を吸収できるバイアス、EQ、録音感度調整は音質はもちろん、ノイズリダクションを正常に機能させるためにも必要な機能なわけですね。

NOISE REDUCTIONをメモする欄がありますね

 ここまで書いておいてなんですが、マジで面倒くさいですねテープ、ヤバいですね。全部忘れてYouTube Music聞いてた方がが人生のためだと思います。ここまで読んで正気に戻れなかった人だけが先に進むことができます。

カセットテープを楽しめるデッキを用意しよう

 これらを全部楽しめるのは、おおよそ3ヘッドデッキと呼ばれる高級カセットデッキになります。消去・録音・再生の3ヘッドです。録音したそばから、再生音をほぼ同時に聞くことができるのが特徴。その代わりほとんどのデッキでオートリバースしてくれません。テープを裏返すのは手動。オートリバースなんて安物のテープレコーダーにもついてるのに、カセットデッキは高級になると逆にオートリバースしない。音質のために利便性を捨てるのはなんだか倒錯してるような気がしますが、大衆向けはともかく、「カセットテープデッキ」を買う層には受け入れられていたわけですね。3ヘッドデッキだけでもたくさんの機種がラインナップされていました*4

TC-K222ESL

 そんな中でわたしはTC-K222ESLというデッキを入手しました。ソニー信者ということもあるのですが、バイアス調整とRecEQがついていて入手性の良いデッキとなると1990年以降の222ESシリーズが一番のような気がします。RecEQは無くても、3ヘッドデッキならPCを音源にしてそちらでイコライザーかければ調整できるのですが、ちょっと面倒かなぁと思いまして。マニュアルにこだわらなければ、YAMAHA KX-493みたいな2ヘッドのオートテープチューニング機もありますし、上を見ればNakamichiが君臨していたり、AKAITEACAIWA、Pioneer……etc それぞれ特色があってテープデッキ沼は恐ろしく深そうですが、ウォークマンとちがってたくさん買うと部屋に住めなくなってしまいますので、最初から機能を満足できて価格抑えめで選んでみました。
audio-heritage.jp

 今新たに手に入れるとすると中古入手しかないわけで、「ジャンク」はもちろん「整備済」とか「動作します」がどれだけの性能を維持しているかは博打。購入しなくてもレンタルという手もありますから、つかりたい沼の深さによって選べばいいと思います。また2022年現在新品で入手できるTEAC W-1200でも上記の録音の楽しみ4以外は楽しめますので、それも手ではあります。TEACは神。しかし4万8000円だと遙かに高性能な整備済み中古デッキが買えてしまうのが悩ましいところなんですよね。テープデッキ文化維持のためにお布施ができるか、問われています。
teac.jp

*1:ここでエンコーダやデータレート、パラメータの設定に趣味性を感じられた時期もありましたね、閑話休題

*2:ただし-20dBに限る

*3:ギリギリ一辺倒でも周波数特性が劣るので、少し抑えめがいいという話もありますが

*4:1998年のソニーのカタログには3ヘッドデッキが4機種、リバースデッキが3機種、Wデッキが5機種掲載されていました